トロピック・サンダー【ネタバレあり】

★★★

公開日  2008年11月22日
上映時間 107分
監督 ベン・スティラー
脚本 ベン・スティラー
原案 ベン・スティラー

製作 ベン・スティラー
キャスト ベン・スティラー  ロバート・ダウニー・ジュニア ジャック・ブラック ジェイ・バルチェル ブランドン・T・ジャクソン ニック・ノルティ ダニー・マクフライド

ベン・スティラー、ロバート・ダウニー・Jr.、ジャック・ブラックなど
ハリウッドスターが落ち目の映画スターに扮したアクションコメディ。
東南アジアで撮影中の戦争映画「トロピック・サンダー」は
主演スター3人のわがままにより撮影が大幅に遅延。
業を煮やした監督のコックバーンはスター3人を含むメインキャストを騙してジャングル奥地に連行し
ゲリラ撮影を敢行するが……。スティラーが製作・原案・脚本・監督・主演の一人5役を担当。

映画.comより一部引用

debuwo評価 81点
おすすめ度  ☆☆(星3)

ガチで作ったハリウッドコメディ

地獄の黙示録撮影中に壊れてしまったフランシスコッポラの逸話をベースに
黒人問題をはじめ、ハリウッド映画界のいろんな人を敵に回しそうなパロディ映画
日本のコメディとはやや毛並みが違う為
下品なネタや、グロに関しては抵抗が出るかもしれないが
パロディ映画を作るにあたって

  • ギリギリ過ぎる業界ネタ
  • 演じるにあたっての役作り
  • 爆発等、演出のゴージャスさ

どれをとっても一級品の良作!

ムキムキベン・スティラー

まず主人公のタグ・スピードマン
見た目がマッドマックスっぽい『スコーチャー』シリーズで一躍スターになるが
しかしブームが去ってからは時代遅れのアクションスターで
コメディ、演技派に転向しようとするが失敗続きの俳優
見た目の引用元は

  • コマンドー
  • マッドマックス
  • フォレスト・ガンプ(シリアス路線)
  • デッドフォール(コメディ路線)

など80~90年代を築いたハリウッドスターそのまんまの経歴
作中の落ちぶれぶり、性格の脳筋ぶりは
低迷期のシュワちゃんとスタローンのパブリックイメージをそのままにした感じだ

ポスターからして…

しかしパロディとはいえ、ここまでムキムキになったのは流石の役作り
引用元のコマンドーと並べると如何にシュワちゃんを意識して作っているかわかる
パロディギャグ映画でも手を抜かないガチ感が素晴らしい

しかし本来の姿は…

作中では、脳筋アクションスターだったベン・スティラーだが
現在も役者と監督・脚本家など裏方もこなせる多才な人物であり
主人公タグ・スピードマンとはおよそかけ離れた存在だ
ただの脳筋にここまでギリギリの業界ネタを
笑えるネタとして昇華し、作品にできるわけがない
そもそも彼の初監督作品が
日本でいう『あいのり!』のような
リアリティショーの馬鹿さ加減を皮肉った
名作リアリティバイツという時点で

賢い人なのは明白
要は、ベン・スティラーはすごい!

黒人になったアイアンマン

みんな大好きアイアンマンのロバート・ダウニー・Jrが演じるのは
出演俳優で最も成功しているオスカー俳優 カーク・ラザラス
演技派で金髪碧眼のオーストラリア人
彼は役作りに没頭しすぎたあまり
全身皮膚移植して黒人になる行き過ぎた作りこみをする俳優
役を演じるために、その人物になりきる演技法『メソッド演技』を擬人化したような存在

当時でも物議を醸し出していたようだが
昨今の社会問題を考慮すると今後このような設定のキャラが登場する事は不可能だろう
しかしオーバーすぎる黒人訛りで喋るRDJはどうみても黒人にしか見えないし面白い
ふざけるにしても本気なRDJは
やっぱり最高の俳優と言わざるを得ない
彼が二度とこの役を演じる事は出来ないと考えればこのトロピックサンダーという映画

実は貴重な作品ではないだろうか?

アカデミー賞の条件

文字通り面白黒人枠なラザラスだが
それもあくまで役作り
役者としての彼の正体は
タグのメソッド演技に対する指摘を彼が行うシーンで見て取れる

フォレストガンプのトムハンクスは
卓球で活躍した国の英雄

レインマンのダスティンホフマンは
自閉症だが数学の天才

アイ・アム・サムのショーン・ペンは
ただ遅れているだけ
だからアカデミー賞は取れなかった

アカデミー賞を受賞しまくったラザラスが
受賞するには演じる事よりも演じる役が重要だと諭すシーン
実際の映画を例に出し指摘するこのシーンは
コメディ映画ながら包み隠さない彼の見解が印象に残る

アメリカではこのシーンが公開当時問題となり
ベン・スティラー自身が釈明をした

色々ヤバすぎるラッパー

映画視聴開始からとんでもないラップで登場するラッパー、アルパ・チーノ
強精飲料とサプリのCMで人気のスターだが実はゲイという衝撃の設定
あまりにもセンシティブ過ぎて曲名すら書くのが憚られるレベルなので
実生活でこの映画については女性に話す時は特に注意したいところだ

何故、パチーノ?

そして、そのラップと同じくらいヤバいのが彼自身の名前だ
お察し通り、彼の元ネタは
超大物俳優アル・パチーノ
なぜ黒人でラッパーの彼が
イタリア系俳優のアル・パチーノから名前を引用しているのか?
その原因は1983年公開の映画
『スカーフェイス』
部隊は80年代のアメリカ
最底辺の移民から身一つで成り上がり
麻薬王として成功を収めた
トニー・モンタナの生涯を描いた作品
劇中のアル・パチーノのかっこよさに黒人やメキシコ系移民から
カリスマ的アウトローとして高い人気を誇っている

ヤク中コメディアン

ジャック・ブラックが演じるコメディアンのジェフ・ポートノイ
ナッティ・プロフェッサーと
26世紀青年の劇中劇『ASS』を
足して2で割ったような
下品極まりない映画「ファッティーズ」が代表作のコメディアン
重度のヘロイン中毒者というどうしようもない俳優
劇中の中毒描写は結構ひどいが、ジャック・ブラックだからぎりぎり面白くみえる

何故エディは一人で複数の役を演じたのか

エディは、お金にがめつく自分が他のキャストを演じれば
その分のギャラが自分に入るという事で
1人9役という前代未聞の配役をやってのけた
そこまでするのかと驚くばかりだが
彼のスター性が無ければそもそも企画すら立ち上がらないことを考えると
低迷した時期はあれど流石の大スター

豪華すぎるカメオや脇役

主要なキャストも納得の豪華さだが
脇を固める役者たちも
とんでもない大物ばかり
中には本人がそのまま登場している俳優もいて驚くばかり

一見おいしい所取りの親友だが…

特にお気に入りはマシュー・マコノヒー演じるリック・ペック
主人公タグのエージェントにして唯一の友人
マコノヒー特有の小粋な感じがそのまま醸し出したキャラで
演出上かなりおいしいシーンもあり、みていて楽しくなるキャラだが
息子との関係や、ラストの描写などから
実は誰よりも重い背景を垣間見せるキャラで

演技派のマコノヒーが演じそう…という
演者のパブリックイメージをそのまま叩き込んだ面白さがある

彼が劇中で連呼していたティーヴォとは
HDDレコーダーの事でおそらく
NASNEのようなものだと思われる

ヤバすぎるトム

逆に演者のイメージと正反対といえば
トム・クルーズが演じるレス・グロスマン
小綺麗でクリーンなイメージがあるトムとはかけ離れた映画プロデューサー

  • 金に汚く、利己主義
  • Fワードや卑猥な単語連発
  • 全身毛むくじゃら

ちなみにこの役に関してトムは
『実在の人物を混ぜ合わせて作ったよ
 モデルは誰かって?それは言えないよ!』
とコメントしているそうだ
こんな奴が実在するのか…
現実では絶対に関わりたくない人物だが
テロ組織との電話や、ダンスシーンなど
見どころ満載のキャラでもある

ハリウッド映画界の懐の深さ

ハリウッド業界を最高にコケにして、世間でもお騒がせになった作品だが
真に驚くべきは、こんな作品に当のハリウッドスター達が出演しているところだ
ここまで小馬鹿にされて許すのは
ジョークが通じるというより懐の深さを感じてしまう

懐古すればよい訳ではないが…

RDJ演じるラザラスの件でも触れたが
終盤のタグが子供をぶん投げるシーンなど
2000年代だからギリギリ許された描写は
おそらく現代では許されないだろう

この作品のようなノリを、何から何まで受け入れろとは言わないが
あれはダメ、これもダメとがんじがらめに規制されつつある現代では
ジョークをジョークとして許容できる
この作品の関係者のような寛容さが必要なのかもしれない

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