機動戦士ガンダムSEED FREEDOM【ネタバレあり】

★★★★★

公開日  2024年1月26日
上映時間 124分
監督 福田己津央
脚本 両澤千晶 後藤リウ 福田己津央
キャスト 保志総一朗 田中理恵 石田彰 鈴村健一 森なな子 坂本真綾 折笠富美子
 三石琴乃 子安武人 関智一 笹沼晃 桑島法子 大塚芳忠 福山潤

公式サイトより引用

debuwo評価 91点
おすすめ度  (星5)

20年の時を経て…

2002年から公開され21世紀の1stガンダムとして人気を博した『ガンダムSEED』
2年後の世界を描き話題を呼んだ『ガンダムSEED DESTINY』から
さらに2年後を描いた、シリーズの正統な続編となる作品
主人公交代劇と終盤のストーリーが悪い身で話題を呼び
更には2006年に劇場版が発表されるも
以降音沙汰なしだった事も含めて曰く付きの作品となる
しかし、2021年に新企画『 PROJECT ignited』が発表され再始動
20年の時を経て遂に完全新作の劇場版が公開された!

評価されるべき冒頭の悲惨な世界

前作の黒幕、ギルバート・デュランダル議長の預言した通り
彼が提案するディスティニープランを否定した結果
燻っていた火種は消える事は無く残り続けた
ブルーコスモスによるテロ、小国で多発する紛争など
平和になるどころか、状況が悪化しているようにすら思える世界
前作、前々作合わせて、作中時間で2年毎に絶滅戦争を繰り返すこの世界は
ガンダムシリーズの中でも殺意が高い

あまりにも楽観的な前作のラストが招いた未来としては納得のいく展開だ

虐殺用対人バルカンがMSに装備されている世界

本作は冒頭で世界平和間監視機構・コンパスの一員として
キラが率いるモビルスーツ部隊・ヤマト隊が武力介入する所から始まる
路傍の花が吹き飛び、無差別に破壊される街、焼き払われる人々
混迷の一途を辿る戦場に舞い降りるライジングフリーダムは
20年という歳月が経ているにも拘わらず
ガンダムSEEDを見てるんだ
と、観客を一瞬でその世界に引き込んでいき
主題歌を担って西川貴教氏が歌うFREEEDOMに合わせて描かれる戦闘描写は

  • 前作から当然の帰結
  • 宣言通り闘い続けるキラ
  • SEED特有の容赦ない戦争描写、スタイリッシュな戦闘演出
  • 西川貴教の新曲
  • 吹き飛ばされる花など、過去作の伏線回収

完全新作の劇場版としては最高のオープニングと言わざるを得ない出来栄え

分かりやすいストーリーも〇

前作SEED DESTINYのテーマ
『戦争はなぜ起こるのか』
『生命の進化が生存競争と適応である事を改めて考え直し、子供たちが厳しい現実と向き合いながら戦う事』など
かなりハードルの高いものだったのに対して
本作ではSEED世界特有のハードな世界情勢はほどほどに
「キラとラクスの等身大のラブストーリー」にスポットを当てたのも英断だろう
数年にわたる彼らの恋仲がどのようなもので、これからどう変化していくのか?
長年のファンとしても気になる部分であり、新規層も比較的取り入れやすかったのは間違いない

また、今回の敵たる存在『ファウンデーション』も
劇場版の敵としてはいう事が無い

  • キラと同等、それ以上のスペックを持つ戦士達
  • ストライクフリーダムすら旧式呼ばわりの最新鋭機部隊
  • 遺伝子レベルでラクスのパートナーとして作られた男
  • 核兵器、レクイエム、ミラージュコロイドの凶悪兵器の役満使用
  • 自分たちが支配すべきという選民思想

これまでキラのアイデンティティだった部分を全て上回り
キラに無能感を与え、精神的に奮い立たなければならない状況に持ち込むには
もってこいの悪役だ
また、少なからず同情要素はあるものの、補って余りある畜生ぶりも良いスパイスになっている

自由の代償を一身に背負うキラ

『覚悟はある』
そういって終結させた前大戦から2年
どれだけ尽力しても好転しない世界情勢や
冒頭で描かれる経済特区防衛線の最中
コンパスの介入までは防衛に徹していたザフト軍が
状況が有利になったとみるや、民間人の巻き添えをお構いなしに追撃する
血で血を洗う憎しみの連鎖に
本当はデスティニープランを運用していた方が
世界にとっては良かったのではないか?と悩む日々を送っていた

あまりにも達観しすぎていた前作の比べて人間性は戻ったが
それ故に世界情勢に苦悩し、責務を果たそうとする様は
痛々しさすら感じるほどだ
個人の状況としては精神衛生上は良くない状態なのは間違いないが
20年前、SEED→DESTINYの空白の2年間で
あれだけ好き勝手した後に事情はあれど、隠遁生活をしていた時に比べれば
責任を果たそうとする様は現在のキラの生き方はとても好感が持てる

突き抜けた男アスラン

キラの絶体絶命のピンチに謎のMSズゴッグを駆り颯爽と現れるアスラン
彼の登場を境に本作は前半の陰鬱な雰囲気から変化していく…
ただでさえ唐突な登場なのにもかかわらず
乗っているMSが今までのジャスティス系列ではなく
ズゴッグなのだ、面白くないわけがない

ガンダムSEEDは2作目のDESTINY
ガナー・ザクウォーリア、グフ・イグナイテッドなど
一年戦争のMSに英単語を付けたMSが登場する事になり
本作でもゲルググ・メナース、ギャン・シュトロームと銘打たれたMSが存在するが…
アスランのズゴックは
『ズゴック』なのである

しかもこのズゴック、ビーム兵装がメガ粒子砲となっているのにも驚きだ
そもそもメガ粒子砲とは、『機動戦士ガンダム』の世界にある技術の産物なのだが
『ガンダムSEED』の世界にはその技術が無く、当然メガ粒子砲も存在しない…
だがこのズゴックはメガ粒子砲を持っているのだ…!!
乗っている男も訳が分からければ
乗っているMSも訳が分からない
終盤まで曇りがちだった過去作とは逆に完全に振り切っており
本作のトンデモ演出の象徴と言っていい存在だ。

何もかもが面白い男

アスランで推しのシーンと言えば
やはり、キラとの本音と拳を交えた男の儀式だろう
こういった場合は避けられるとしても敢えて喰らって
本音と拳でぶつかり合うものだが…
そこはアスラン
キラの攻撃は全て捌いて
自分の拳は全てクリーンヒットさせている
流石と言わざるを得ない

やってる事は正しいけどおかしい男

スーパーコーディネーターであるキラは運動神経も勿論よく
白兵戦においても高い素養は持ち合わせているものの
そこはあくまで素養だけで、訓練はあまり積んでいないようで
アスランほど白兵戦に長けているわけではない

大満足の最終決戦

ラストの戦闘シーンは大満足の一言に尽きる
SEED DESTINYでは主人公が乗り換える機体でありながら
主人公交代劇の為、これでもかと言うほどに叩きのめされたデスティニーガンダム
しかし今作では登場するディスティニーガンダムSPEC2は
前作のイメージを払拭してお釣りが出るほどの活躍ぶりである

  • キラと同じく不殺
  • 上司のキラとの関係が上手くいってない
  • アコードに完全にハメられる
  • 基本性能は高いがシンの適正に合わせた機体ではない
  • というか自分をボコボコにした機体の後継機

そもそもシンはSEEDのパイロットの中でも特にメンタルに左右される事があり
前作では完全にブチ切れた時はキラを圧倒してる反面
錯乱状態に近かった終盤ではアスランに完膚なきまでに敗北している。

そんなシンが上記の内容で満足に力を発揮できるわけもない
それとは打って変わって終盤では

  • 遠慮なく叩き潰せる悪党
  • キラに戦場の要を託される
  • シンの適正に合わせて作られたデスティニー

彼のメンタルを曇らせる不安要素はゼロであり
全力全開で戦いに臨める状況だったのである。
しかしあそこまで活躍するとは
誰も思っていなかったのではなかろうか…

カラーリングがレジェンドに近いのがすごく良い
  • トンデモ戦艦ミレニアム
  • 無双するデスティニー
  • 面白すぎるインフィニットジャスティス
  • 最後は愛のマイティフリーダム

彼らを始め味方陣営の圧倒的な活躍は
カタルシス満点で最高のエンターテイメントだ
無双ぶりだけで言えばDESTINYのラストも相当なものだが
それとは比べ物にならないほどの魅力が本作にはあり
わかりやすい演出だけでなく
攻撃を受ける前にレールガンで地面を打ち抜き
粉塵で敵の遮るストライクフリーダム弐式の戦闘描写など

ファンならニヤリとする細かな描写も素晴らしい

ジャンク屋が関わってそうな日本刀

ラストシーンの意味

アコードとの戦いに決着をつけた後
互いの気持ちをぶつけ合ったキラとラクスは
戦場から行方をくらまし
海岸で全裸になって抱き合っている
あまりにも唐突なシーンには
過去のSEEDOPで全裸の人間は本音で生きている表現
という演出のセルフオマージュと思われる

実は平和になっていない

本作はキラとラクスのラブストーリーとしては
綺麗な着地点を見せたが
それとは裏腹に、世界情勢は混迷の一途を辿っている
アウラの計画は阻止できたものの
世界平和機構コンパスは、今回の一件で一部加入国が同盟破棄し
ブルーコスモスは未だに水面下で活動を続けており
ナチュラルとコーディネーターの種族間争いは溝が広がるばかり…
実は本編開始時よりも状況は悪化している…

最も業が深いガンダムの世界

小説版では、アスランとカガリが
これからはキラとラクスに頼れないと思っている演出があり
彼らを主人公にした続編は考えにくい
筆者的にはSEED DESTINYで主人公の座を奪われたシンを
続編の主人公にしてくれることを切に願うばかりだ…

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